「ニンゲンの巣」を作ってほしい──。
M様ファミリーのオウチStoryは、そんな〝ご要望〟からスタートしました。ちょっと不思議な感じのするこの言葉は、家という安らぎの場所のイメージ。心からのくつろぎを求める家族のこだわりでした。
「ニンゲンの巣」というテーマについて、「ニンゲンだから成しうる絶対のくつろぎを追求する物体にしたかったんです」とMさんは話します。また、「エントランスからアプローチ、玄関、リビングからキッチン、ウッドデッキや2階へと、流れがスムーズに進み、その中心に包まれながら安心してくつろぐ。そういうスタイルが家づくりのコンセプトでした」。
住まいについて、はっきりしたイメージを、お持ちだったMさん。それだけに、建築家の選定にも苦労されたといいますが、HOPが提出したプランを見て「これだ!」と即決してくださいました。
「自分のこだわりを、これ以上ない的確なかたちで家にしてくれていると思いました。その後も、想いを非常によく汲み取ってくれて、素晴らしいアイデアを次々と提案していただけたんです」
プロとして、できないことは〝なぜできないのか〟を説明し、最適な着地点を一緒に探し出してくれたことも、好印象として残っているとおっしゃってくれるMさん。
「毎回、打合せでお会いするのが楽しみでした」。
農業を営むMさん。市街化調整区域のなかにあり、通常は建築許可が下りないものの、特例的に農家住宅なら可能だということで敷地を確保しました。けれども、敷地の上を斜めに走っている高圧線の下には家が建てられず、残った三角形での土地での設計となったのです。
「幸い法改正があり、高圧線下でも車庫・物置ならばOKになったので、それをうまく利用して……という計画になりました。厳しい条件のもとでの設計になりましたが、この家のフォルムは制約、困難があったからこそ生まれたものでしょう」
素晴らしい偶然が重なって、最高のものが生まれた気がする、とMさんは話しています。そして、一番長い時間をかけて話し合われたのが、家族が集うリビングをどういうかたちにするか、ということ。
「玄関からの流れ、リビングからキッチンへの流れを妨げず、ソファーが渦の中心をなすようにしたい」と、ソファーの位置、そしてソファーそのものにも強いこだわりをお持ちでした。そのため、足が棒になるほど家具店や工房をまわり、理想のソファーを探したというMさん。しかし結局、見つからず、とうとう自分でソファーの模型をつくり、持って来られました。
「粘土でつくった模型を見せ、まだ土がむき出しの現場に〝ここに、こうやってくつろぐ感じで!〟と座ったり、身体を投げ出したり……。でも石出さん(HOP代表)やスタッフは、なぜ私がそこまでこだわるかをちゃんとわかってくれていて、その想いをみごとにかたちにしてくれたんです」。
こうしてできあがったのが、造り付けのオレンジのソファー。気がつくと家族が集まっている、最高に居心地の場所になっているといいます。
「楽しんでつくってください、と現場の方たちにお話ししていたのですが、実際、大工さんたちはすごく楽しそうに作業していて。みんながこの家の完成を楽しみにしてくれていると感じ、こういう空気のなかで生まれる家が、居心地良くないわけはないと確信しました」
そう話すMさんは今、仕事を終えて家に入り、リビングのソファーに身を委ねる時、無情の癒しを感じると言ってくださいます
「木の良さでしょうね。すごく落ち着くんです。私たちが住み続けて馴染んでくればまた、雰囲気も変わるでしょうし、どんなふうに磨かれているか、新しい毎日が楽しみです」
家にいる時間が何よりも楽しい。そんな、これ以上ない嬉しい言葉をいただきました。個性的で、そして、とてもステキなオウチStory、ありがとうございました!